利益・経営
軽貨物案件の粗利計算|赤字現場を見抜く収支管理表
請求額とドライバー支払の差だけを粗利とすると、代走、採用、現場管理、誤配対応が抜けます。しかも、その抜けた費用ほど、社長や管理者が黙って穴を埋めていることが多いものです。案件を維持するために実際に使ったお金と時間を月次で集め、見かけの黒字をなくす方法を、収支表の作り方から撤退基準まで順に整理します。
Answer結論
軽貨物案件の粗利は、請求額からドライバーへの支払いを引いただけでは分かりません。代走の追加支払い、会社負担の車両・燃料、採用・教育、誤配や苦情の対応、そして社長や管理者がその案件に使った時間まで、案件にひもづく費用を同じ表に集めて引いたものが、本当の案件粗利です。これを現場ごと・月ごとに出せば、単価が高いのに赤字の現場が見えてきます。
Key pointsこの記事の要点
- 請求額−支払いの差額は、まだ案件粗利ではない。案件にひもづく費用を同じ表に集める
- 社長や管理者の対応時間も、時間単価でお金に換えて案件に載せる
- 単価が高い案件ほど赤字が隠れやすい。通常月と欠車月を分けて見る
- 改善期限・最低粗利額・安全の最低条件を、撤退基準として先に決めておく
目次
01『請求額−支払い』で止めると、赤字現場は見えない
多くの会社で、案件の採算は『荷主への請求額から、ドライバーへの支払いを引いた残り』で語られています。分かりやすい数字ですが、ここで止めると、案件ごとの差がほとんど見えません。
代走が多い案件、遠くて管理者が何度も足を運ぶ案件、苦情の電話が多い案件。こうした案件は、差額が大きくても、実際には会社のお金と時間を大きく使っています。その費用が会社全体の経費に紛れていると、『どの現場が利益を生み、どの現場が食いつぶしているか』が分からないまま、全体として何となく回っているように見えます。
会社全体の利益率の見方や、売上に含まれる消費税の扱いは『軽貨物会社の利益率はどれくらい?』で整理しました。この記事では、一段細かく、案件ごとの粗利の出し方に絞ります。
図1案件の本当の原価は、支払いだけではない
02案件収支表に入れる項目
会計科目ではなく、現場責任者が原因を説明できる項目に分けます。売上は個数・台数・日数に分解し、費用は固定と変動を分けます。会計ソフトの勘定科目と一致させることより、『この費用はなぜ増えたのか』を現場の言葉で答えられることを優先します。
金額は税抜でそろえます。売上に含まれる消費税は預かっているお金なので、税込の売上と税抜の費用を混ぜて比べると、粗利が実際より大きく見えます。
| 区分 | 主な項目 | 根拠 |
|---|---|---|
| 売上 | 運賃・追加請求・付帯作業 | 請求明細 |
| 運行原価 | 委託料・給与・車両・燃料 | 支払明細 |
| 変動対応 | 代走・欠車・事故・減額 | 運行記録 |
| 獲得維持 | 採用・教育・備品 | 請求・工数 |
| 管理 | 配車・請求・苦情対応 | 時間×単価 |
03管理工数をゼロ円にしない
社長や管理者が無償で穴を埋めると、その案件は黒字に見えます。欠員の連絡を受けて代走を決める、苦情の電話に出る、荷主と調整する。どれも給料や役員報酬の中に消えて、案件の費用には載りません。
案件別に対応時間を簡単に記録し、標準の時間単価で配賦します。分単位の精密さは要りません。『朝の欠員対応30分』『苦情対応1時間』程度の記録を、同じ基準で毎月続けることのほうが大切です。時間単価は、管理者の人件費を月の稼働時間で割った数字を社内の基準として決めておきます。
04仮の数字で比べると、単価の高い案件が赤字になる
二つの案件を、同じ表で比べてみます。案件Aは単価が高く、『請求−支払い』の差額も大きい。案件Bは単価が低めで、差額も小さい。ここまでなら、Aのほうが良い案件に見えます。
ところが、Aは遠距離で代走が多く、新人がなかなか定着しないため、採用と教育にもお金がかかっています。管理者が対応に使う時間も、Bの3倍以上です。案件にひもづく費用を全部載せると、粗利はBのほうが大きくなります。
図2差額が大きい案件と、粗利が大きい案件は違う
| 項目 | 案件A(単価が高い) | 案件B(単価は低め) |
|---|---|---|
| 月の売上(税抜) | 80万円 | 60万円 |
| ドライバーへの支払い | 60万円 | 45万円 |
| 『請求−支払い』の差額 | 20万円 | 15万円 |
| 代走の追加支払い | 5万円 | 1万円 |
| 会社負担の車両・燃料 | 3万円 | 2万円 |
| 採用・教育の配賦 | 4万円 | 1万円 |
| 管理工数(時間単価2,500円) | 5万円(20時間) | 1.5万円(6時間) |
| 案件粗利 | 3万円 | 9.5万円 |
05赤字の原因を、数量と単価に分ける
粗利が計画を下回ったら、売上側と費用側に分けて原因を探します。『現場が悪い』『あのドライバーが悪い』では、対策になりません。
見落とされやすいのが、品質の費用です。人が辞めた穴を慣れない人で埋めると、誤配や遅延、苦情が増えます。その対応に管理者の時間が取られ、再配達や減額が発生し、最悪の場合は荷主の信頼を失います。誤配や苦情の件数は、品質の数字であると同時に、案件の費用の数字でもあります。
- 売上が足りない:物量、稼働台数、請求漏れ、単価のどれか
- 支払いが重い:支払条件、長時間対応、固定払いと物量のずれ
- 変動費が多い:代走、欠車、事故、減額
- 見えにくい費用:採用・教育の繰り返し、苦情と再配達の対応
06通常月と、欠車・繁忙の月を分けて見る
月ごとの粗利は、代走が重なった月や、年末などの繁忙期に大きく振れます。1か月の数字だけで『赤字案件』と決めつけると、判断を誤ります。
収支表には、その月に特別なことがあったかを一言添えます。立ち上げの月、欠車が続いた月、繁忙期の応援が入った月。通常月の平均と、振れた月の幅を両方見れば、『構造として赤字の案件』と『たまたま悪かった月』を分けられます。構造として赤字なら、現場の努力ではなく、契約条件の見直しが必要です。
07撤退基準を、先に決めておく
改善期限、最低粗利額、安全・品質の最低条件を、案件ごとに決めます。粗利があっても、事故のリスクや支払サイトの長さで会社を危険にする案件はあります。基準を下回ったら、値上げ交渉と撤退の準備を同時に進めます。
撤退を選べるかどうかは、その案件に売上をどれだけ頼っているかで決まります。一つの取引先に売上の大半を握られていると、赤字と分かっていても断れません。交渉の進め方は『軽貨物の運賃交渉のやり方』に、取引先に選ばれる側から選ぶ側へ回るための条件は『軽貨物会社の売上を上げるには?』に書きました。
- 改善期限:いつまでに、どの数字が戻らなければ見直すか
- 最低粗利額:本部の固定費を賄うために、この案件に必要な金額
- 安全・品質の最低条件:長時間運転や無理な時間指定を、現場に押し付けない線
- 移行期間:撤退する場合、ドライバーの次の配置と荷主への引き継ぎにかかる期間
08月次締めの手順を固定する
月末から数えて、運行実績確定、ドライバー支払確定、荷主請求、管理工数入力、粗利レビューの締切日を決めます。未確定費用をゼロにせず、見込額として表示して翌月に差額を戻します。
現場責任者と経理で数字が違う場合は、どちらかを上書きするのではなくデータ元まで戻ります。収支表の版数を残せば、後から赤字化した時期と要因を追えます。
図3案件粗利の月次締め
- 01運行実績の確定個数・台数・日数・代走の記録をそろえる
- 02ドライバー支払の確定通常分と代走・追加分を分けて集計
- 03荷主請求付帯作業や追加請求の漏れを確認
- 04管理工数の入力案件別の対応時間を時間単価で金額に
- 05粗利レビュー計画との差を、売上側と費用側に分けて説明
Q&Aよくある質問
- 案件の粗利には、どこまでの費用を入れればいいですか?
- ドライバーへの支払いに加えて、代走の追加支払い、会社が負担している車両・燃料、その案件のための採用・教育、誤配や苦情の対応、社長や管理者が使った時間まで入れます。本部の家賃のように案件と関係なく出ていく費用は、案件粗利ではなく会社全体の営業利益の側で見ます。
- 管理者の時間を、どうやってお金に換えればいいですか?
- 管理者の人件費を月の稼働時間で割り、社内の標準の時間単価を決めます。案件ごとの対応時間を大まかに記録し、時間単価を掛けて配賦します。精密さより、同じ基準で毎月続けることを優先してください。
- 1か月赤字だった案件は、すぐにやめるべきですか?
- 1か月だけで判断せず、代走が重なった月や繁忙期など特別な事情がなかったかを確認します。通常月の平均でも赤字なら構造の問題なので、改善期限と最低粗利額を決め、条件の見直し交渉と撤退の準備を同時に進めます。
